作品第三一二番
2007 / 08 / 03 ( Fri )
正しく強く生きるということは
みんなが銀河全体を
めいめいとして感ずることだ
・・・・蜜蜂のふるいのなかに
滝の青い霧を降らせ
小さな虹をひらめかす
いつともしらぬすもものころの
まなこあかるいひとびとよ・・・・
並木の松の向こうの方で
いきなり白くひるがえるのは
どれか東の山地の尾根だ
(祀られざるも
神には神の身士がある)
ぎざぎざの灰いろの線
(まことの道は
誰が考え誰が踏んだというものでない
おのずからなる一つの道があるだけだ)
ここはたしか五郎沼の岸で
西はあやしく明るくなり
くっきりうかぶ松の脚には
一つの星も通って行く
・・・・今日のひるま
ごりごり鉄筆で引いた
北上川の水部の線が
いままっ青にひかってうかぶ・・・・
わたくしはこの黒いどてをのぼり
むかし竜巻がその銀の尾をうねらしたという
この沼の夜の水を見ようと思う
・・・・水部の線の花紺青が
火花になってぼろぼろに散る・・・・
作品第三一二番(「春と修羅第二集」より)
宮沢 賢治
注解:
「身士」・・・身のよりどころとなる国士、環境などのこと。
「五郎沼」・・岩手県市紫波郡紫波町南日詰にある。
五郎沼堤とも言い、古くから農業用水に利用されていた。
沼には主がすんでいたという伝説があり、桜の名所。
「花紺青」・・青ガラスを粉にして作った美しい青絵の具。
またはその色をいう。
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